《知っトク》努力は天才に勝る
格言『本当に納得するまで食い下がり、自分で解くことに対するしつこさがあるなら、多少の頭の良さなど凌駕する。』
ある春の日のことです。私の塾に、お母さんとお子さんがやってきました。
お母さんいわく、『この子は小学校のときはよく出来たのに、今ではまるでヤル気も感じない』
その子が私の塾に通うようになり、しばらくするとその原因がはっきりしてきました。
確かに彼女には基礎学力がありました。
でも、お母さんが言うように『やる気』を見られない。
かと言って勉強が嫌いそうでもなく、むしろ「もっと勉強をしたい」という欲求を、私は彼女からどことなく感じ取りました。
あるとき、彼女は数学の図形を使った文章問題を自分で解こうしました。
少し考えただけで、あきらめてしまうのです。
彼女は決して飲み込みの早い子ではなかったのですが、丁寧にゆっくり考えると問題が解けるという確信が私にはあったので、『なぜ、もっと十分に考えないの?』と声をかけました。
すると、彼女はキョトンとした顔をして、こう言うのです。
「エッ!先生、教えてくれるんじゃないの?。わたし時間かかるから、前の塾じゃ、すぐ教えてくれたよ。」
まるで申し訳なさそうに、『考えていいの?』というような顔をしているのです。
このとき私は、彼女から、本末転倒と言いましょうか、勉強するということの本質を履き違えたイビツな教育を連想しました。
私は、彼女にすぐに言いました。
「自分で納得いくまで、考えてごらんよ」
思ったとおり、彼女は急に嬉々として、机に前のめりとなり、問題を解くことにチャレンジし始めました。
自分で考えたい。自分でやりたい。自分でやりとげたい。
子供達は普通、こう思うものです。
私の塾に通う小学校低学年の子供たちの中には、自分で解けずに悔し泣きをする子もいるくらいです。
それがいつの間にか、テストや受験のためだけの勉強となってしまい、効率重視をし、
言わば大人の都合で、子供達に『絶対に自力で解きたい』という心構えを日々、少しづつ捨てることを強要していたのです。
最後の最後に差となる意志の強い力が身に付くかどうかが、大人になってから人生を大きく左右すると思います。
執念・意地・根性・しつこさ・・・。言い方はいろいろあります。
この力こそ、子供に植え付け伸ばしてやることが、本当の意味の教育ではないでしょうか。
確かに問題が解けないから教えてやることは当然です。
結果、彼女の場合はその問題が自分で解けるようになったかと言えば、そうではありませんした。
それでは何のための勉強かわからなくなってしまい、結果、意欲も減退し、テストの点数も下がってしまう。
勉強すること自体が、嫌いになりかけていたほどです。
彼女は、その後、数学が得意科目になりました。
パズルを良い例に、大人の誰しもがも難題のカギを見つけて自分で解決するという思考の醍醐味を、成長過程のどこかで味わっているはずです。
その感動を子供達にも、子供のうちに十分に味あわせてあげることが、強い大人に作ることになるのだと思います。
『自分で考えて、考え抜いて。とうとう発見することって、本当に楽しい!』
この実感を持たずして、テスト問題だけを解くテクニックだけを伸ばしていくことには必ず限界があり、本当の意味での生きた学力を養うことは不可能ではないでしょうか。
算数や数学に限らず、子供たちに、将来、自分の夢を追い、実現させる人生を歩ませたいと思ったら、『自分でやる』、『最後までやりとげる』という意志を子供たちの中に根付かせる必要があります。
意志のある子であれば、多少の苦難などものともせずに楽しんで乗り越えていくことが
できるはずです。
彼女は、再びその第一歩を大きく歩みはじめました。
そんな彼女の姿を見て、私たち大人は、どうやってこの醍醐味を子供たちに伝えていくかに、実のところ、もっともっと配慮しなくてはと改めて考えさせられました。